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万川集海

正忍記

忍秘伝

忍秘伝にんぴでん
忍秘伝とは

 いわゆる三大忍術伝書の1つで、全4巻。「しのびひでん」とも。沖森本が有名だが、他に写本も存在する。長らく現代語訳本は存在しなかったが、2019年に中島篤巳氏によって国書刊行会より刊行された。

 永禄3年(1560)、当時19才だった服部半蔵正成が著したものであるといわれていたが、1巻の「伊賀甲賀傳記」には永禄3年以降の出来事も記されるなど、 間違いなく永禄3年以降の著作である。現在伝わる『忍秘伝』は ①服部半蔵正成が記したものに補筆したもの ②服部半蔵正成の著作とみせかけた後世の作 のどちらかであろう。『完本 忍秘伝』の著者である中島篤巳氏は、2巻と3巻に一部重複が見られるなど、それぞれの巻は本来別のものであったとし、後世どこかのタイミングで1セットにまとめられ、いまの『忍秘伝』になったのではないかと指摘している。

 また歴史学者の磯田道史氏は、奥付に記されている人名が岡山藩の記録にも見えることから、岡山藩の伊賀者によって承応~享保12年(1652~1727)に著されたものであると指摘している。

写本と所蔵者(個人蔵を除く)

 復刻版の底本である沖森本は、伊賀流忍者博物館沖森文庫に所蔵され、「デジタルミュージアム 秘蔵の国伊賀」で公開されている。同館の藤田文庫にも写本がある。

 東北大学図書館狩野文庫に、写本と青写真本の2種が所蔵されるが、どちらも「天保十三年 永田賛典写」と奥書きされる。また、両書とも国書データベースで公開されている(写本青写真本)。國學院大學図書館梧陰文庫にも写本が所蔵されるが、こちらは巻之二のみである。

  目録

項 目 内   容
巻 之 一
伊賀甲賀伝記忍びの由来など
筒火の事鳥の子、筒火など10種。名称列記のみ
忍び打明松の事松明12種。名称列記のみ
万竊盜の大事忍び焼薬、熊坂火など、攻撃用の火器18種。名称列記のみ
忍道具の事軽明松、大宮内など20種。巻之二参照
仕置薬の事薬類9種。名称列記のみ
車洗の次第諸真言秘密の大事など5種。名称列記のみ
巻 之 二
忍道具秘法道具について記している巻之二の巻頭言
軽明松の事目立たず持ち歩きしやすい、コンパクトな松明。テニスのラケットのような形状
大宮内の事不詳。火ばさみのようだが、苦無のようでもある。大宮内は長さ2尺2寸
小宮内の事同上。小宮内は長さ8寸
鎌作の事のこぎり刃の普通の鎌
トイカキの事形状は大きな鎌。城中に入るときや、塀・柵木を破るときに使う
鉄の事刃の大きな包丁に見える。万能ナイフのように、万事に使用
クロロカギの事扉の鍵を開けるためのL字の道具。ストラップを付けて、腰にぶら下げて持ち歩く
キリの事錐。穴を開ける道具
大鋸の事大鋸と小鋸がある。壁を切る道具。武器を作るためにも使用する
碇の事鉤縄の水版として、水中の石などに引っ掛けて縄を止め、水中移動の便や、浮橋の固定、敵船に引っ掛けるなどする。通常の鉤縄のようにも用いることができる
結梯の事竹・木や縄を使って作るシンプルなハシゴ
浮橋の事堀や河に掛けて渡るためのハシゴ状の橋
小鋸の事大鋸の項参照
些音聞金の事金属板。物音を聞く際に耳に近づけて持つと、声が響いて聞こえる
蒔菱の事鉄を2つ溶接してトゲを作る。逃げる際に撒いて、敵に踏ませる
水中水入りの事水中で用いる兜。頭上からの矢玉に備える
水中些音聞金の事金属板。水中で使用する些音聞金
水中甲の事水中で用いる兜
大国火矢の事火薬を仕込んだ筒を搭載した火矢
浮踏の事水中で用いる浮袋
仙方妙薬空腹・飢渇を紛らわす丸薬。前書、作り方、香り、用法、効能について記す
竊盜忍びについての口上
巻 之 三
火箱の事火を持ち運ぶための小箱
黒焼の事綿紙の黒焼。着火剤に用いるものと思われる
火金の事火を持ち運ぶための金属らしい
四寸火縄筒着古した麻布から作る。着火剤か
夜打鳥子着火剤か
竊盗鳥子忍び入るときに家の中の様子を見るときに用いる手のひらサイズの明かり
打手火の事手のひらサイズの明かりか
台尻の事車菱(大型の撒菱)のことらしい
探り金の事戸締まりの栓の様子を伺い、また外すための道具
延鍵の事鍵を開けるための道具
刃鍵の事鍵穴から入れて鍵を開ける道具
楯の事けやき又は樫の木で作る
金牛房の事戸をひらく梃子のような道具
鍵刃の事鎌のこと
木太刀の事なたの先に石突(傘の先端にあるやつ)を付けたもの
刃先の事工具の「のみ」のこと
三方通し「四方通し」もあるという。錐のこと
すりきりの事ただのスリキリのこと
釘喰の事釘抜きのことか
車菱の事金属の菱
後縄菱の事流し縄菱。2,3間の縄に菱を付けたもの
弓矢の事弓矢のこと
水縄の事堀の大きさを測るための縄
下縄の事堀の深さを測るための縄
下橋の事堀を渡るための橋
火かくし置く橋立の次第埋め火など
流橋の事水上に浮かべる筏状の橋
まくり橋の事石垣を登るための梯子
宮内大事不詳。長さ1尺6寸、本は丸く、先端は四角にして、100本も用意するという
しやちほくの事不詳。火ばさみに見えるが、苦無のようでもある
土通しの事忍びの土(?)を下ろすための筒状の布
折鍵の事四つ折のノコギリ
玄能(堅脳)トンカチのこと
矢のこと
鉞(まさかり)の事まさかりとは、刃が大きく、片方がくびれている斧のこと
焼明松の事普通の松明
真綿の事門を静かに開けるときに使用する
ちろりの事不詳。大秘事のため口伝と書かれる
子鶉の事不詳。奥義のため口伝と書かれる
作法作物の事不詳。これも奥義だという
手の内火の大事火陽板とも。不詳
巻 之 四
忍び出立秘伝の事 方言・姿態・職業をまねて、時事の話題を語り、礼儀をもってあたれば、自然と人に親しみを持ってもらえる。人の親しみ無くして功は得難い
便宜の人に寄る心得他国の領主の様子を知る方法
逢わずして逢う秘事他国に行って、その国の間者に、自らは忍びと気づかれずに会う。そうすれば、嘘をつかれることはなく、時々本当のことを喋ってくれる
見所聞所肝要の事潜入する国の領主について、その評判や仕置、また国内の富貴・交通・城郭の様子まで見る。表だけでなく、裏まで見ることで、後日の利まで含めて判断することができる
随所変体の心得その土地の人の恰好をし、方言を真似て、紛れて侵入する
他国に忍入る心得人混みや風雨に紛れて侵入する
行路難の心得夜中に他国、野山を通過したり、家に侵入するときの心得
忍 入 大 極 意 猿子入りの事白昼は猫の形を作って家に侵入する。また家の軒から軒へ移るときは継梯子を使い、また宮内を使う
堀越土台抜きの事堀を越えるときは、釣梯子や下梯子を使う
門を開く事肘壺(扉の回転軸)に綿を巻いて開くと音がしない
扃(門戸)・敷居の事水を差し、油をかけて開ければ音がしない。油水がなければ尿でも良い
人の寝所を通るの事人の寝ているところを静かに歩く方法
板屋を踏み通る事屋根の上を静かに歩く方法
忍 び 隠 密 秘 伝 拍子木の事家の中の様子を探るために、拍子木を打って様子を伺う
声を立てて呼ぶ事火事・喧嘩・夜討などと声を上げると人々が騒ぎだす
火を掛ける事遠いところの家に放火すると人々が騒ぎだす
馬を放つ事厩の馬を繋ぐ縄を切って馬を放つと人々が騒ぎだす

関連書籍

書名 著者 出版社 定価 備考
忍秘伝     10000円 沖森本の復刻版、和装函入1冊。伊賀流忍者博物館で販売。
忍秘伝 編:沖森直三郎 沖森書店 20000円 和装函入2冊(「忍秘伝」と「(沖森)家蔵忍術文献書目」)、限定出版、「家蔵忍術文献書目」は忍秘伝の解説と沖森家所蔵忍術文献目録で構成されている。
完本 忍秘伝 中島篤巳 国書刊行会 4500円 東北大狩野文庫本の現代語訳、翻刻、影写(原本コピー)が収録。



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